【医師解説】腎臓病に「便秘」は百害あって一利なし!リスクと改善策を徹底解説
こんにちは、赤羽もりクリニック院長の森 維久郎です。
今日は、腎臓と便秘について解説してみようと思います。
意外と思われるかもしれませんが、腎機能が悪くなると便秘を発症しやすくなることが分かってきました。
理由はさまざまですが、便秘が腎臓病の合併症である不要物の除去不良を介して全身に影響を及ぼすことなどが注目されています。
さらに最近では、便秘が単なる合併症であるだけでなく、腎機能そのものにも悪影響を与える可能性が示唆され、特定の便秘薬の治療を行うことで腎機能に対して保護的に働いた、という報告も少しずつ出てきています。
このように腎臓と腸が密に関わり合う「腸腎連関(ちょうじんれんかん)」について、今日は一般的なお話から最新情報まで含めてお話しさせていただきます。
腎臓病で便秘が起きる理由
腎臓病で便秘が起きる理由は多岐にわたります。
少し詳しく解説するので難しかったら以下の3点だけ抑えてあとは読み飛ばしてもOKです。
- 腸の細菌のバランスが悪くなる
- 腸の血流障害がおきる
- 腎臓病の食事療法の悪影響
腎臓病と腸内細菌のバランス(ディスバイオーシス)
腎臓病の患者さんの腸内では、健康な人と比較して、細菌のバランスが崩れる「ディスバイオーシス(Dysbiosis)」という現象が起きています。
例えば、善玉菌(ラクトバチルスやビフィズス菌)などが減少する一方で、悪玉菌(エンテロバクテリアセ:腸内細菌科)が増加します。
理由は腎機能が悪くなると、体全体が酸性に傾きます。
このpHの変化が腸内細菌の生息環境に影響を与え、菌の構成バランスを変化させてしまうと考えられています。
また、腎機能の低下により、本来排出されるべき老廃物が血液中にたまると、それらが腸管へと移行します。
腸内に入り込んだ老廃物(尿素など)が増えることでアンモニアが産生され、悪玉菌が増殖しやすい環境が作られてしまうとも言われています。
善玉菌が減ることにより、腸のエネルギー源であり免疫も司る「短鎖脂肪酸」の産生が低下し腸の動きが悪くなることも報告されています。
腎臓病と腸の血流障害
腎臓病の患者さんでは、一般的に血管障害を合併していることが多く、腸への血流障害もしばしば見られます。
血流が悪化することによって、腸の細胞に必要な酸素や栄養が届きにくくなると言われています。
こうした慢性的な血流障害は、腸のバリア機能を破壊します。
具体的には、腸の細胞同士を密着させている「タイトジャンクション(Tight Junction)」という結びつきが弱くなってしまいます。
その結果、本来は腸にとどまるべき不要な細菌や毒素が、腸から血液中へと漏れ出し、全身に炎症を引き起こすことが確認されています。
この現象は「リーキーガット(Leaky Gut:漏れる腸)」と呼ばれています。
腎臓病の食事療法による悪影響
腎機能の保護を目的とした食事療法が、逆に腸内環境へ悪影響を及ぼしてしまうことがあります。
例えば、腎機能が悪化すると、カリウム制限のために野菜や果物の摂取を積極的に控えるよう指導されることがあります。
しかし、それに伴い食物繊維が不足してしまいます。
食物繊維は腸内細菌にとって不可欠な「餌」であるため、これを制限することで菌のバランスが崩れてしまいます。
また、腎臓病の食事療法を徹底するあまり、特定の食品しか食べなくなる傾向も見られます。
これについてはまだ完全なコンセンサスが得られているわけではありませんが、人間の腸内には約1,000種類もの細菌がそれぞれの「縄張り」を持って生息しており、各グループにまんべんなく栄養を届ける必要があります。
一つの食材を大量に食べるのではなく、多種多様な食材を摂取することで、それぞれの菌が好む栄養素を供給することが重要です。
特定の縄張りだけを育てるのではなく、多様な食事によって腸内全体のバランスを保つことが大切だと言われています。
最近では、YOUTUBEなどのメディアで腎臓病の食べ物に関する「あれもダメ、これもダメ」という情報発信により制限を重ねて特定の食品に偏ってしまう患者さんを多く見かけます。
「腎臓病に良い特定の食べ物」を探す方は多いですが、腸内環境という文脈で言えば、逆効果になっていることがあります。
腸内環境は人によって千差万別であり、これまでの人生で何を食べてきたかによっても大きく左右されます。また、腸内環境を変えようと思っても短期間で結果が出るものではなく、半年から1年ほど食生活を継続して改善することで、ようやく変化が現れるものです。
そのため、「何を食べればよいか」という問いへの答えは、腸の文脈で考えると、まさに「人による」というのが実情です。
こうした背景から、私は個人的に、短絡的に食生活をガラッと変えてしまうことは、あまり望ましくないと考えています。
腎臓病の食事療法において、安易に腎臓の食事療法に飛びつくのではなく本当にその制限が必要なのかを見極めることも非常に重要です。
腎臓病+便秘の全身への悪影響
腎臓病における便秘の全身への健康影響にはさまざまなメカニズムがありますが、主に2つの視点からお話しします。
腎機能そのものに与える影響
便秘によって腎機能そのものが悪化する可能性が示唆されています。 腸の動きが悪くなり、便が長時間滞留すると、腸内細菌(悪玉菌)によるタンパク質の腐敗が進みます。
その結果、インドキシル硫酸やp-クレシル硫酸といった「尿毒素」が大量に産生されます。
これらが腸管から血液中に漏れ出し、腎臓に到達すると、腎細胞を傷つけ、炎症や線維化を引き起こすことが報告されています。
実際、疫学研究においても、便秘がある患者さんは、そうでない患者さんと比較して透析への移行リスクが高いというデータが出ています。(J Am Soc Nephrol . 2017 Apr;28(4):1248-1258. )
全身疾患としての影響
腎臓病は腎臓だけの問題ではなく、全身に影響を与える疾患です。
腎機能が低下して老廃物を尿から出せなくなると、体は代わりに腸から不要なものを排出しようと機能します。
しかし、そこで便秘が発生すると、腸からの貴重な排泄ルートが閉ざされてしまいます。
- ミネラルへの影響: 通常、血液中にたまりやすいカリウムやリンなどのミネラルは、腸からの排泄を促すことである程度コントロールが可能です。便秘になるとこれらがさらに血液中に蓄積し、心臓や血管に深刻な悪影響を及ぼします。
- 動脈硬化への影響: 腸で発生した毒素や炎症物質は、血管壁に炎症を引き起こして動脈硬化を進行させ、心筋梗塞や脳卒中のリスクを高めます。
- 身体機能への影響:尿毒素は筋肉にも悪影響を与え、筋肉量の低下(サルコペニア)を招きやすくなります。 腎臓病の患者さんは、健康な方と比較して身体機能が7割程度まで低下するという報告もあります。
これらの毒素を上手に排泄することは、腎臓病治療において非常に重要な鍵となります。
腎臓病と便秘の治療 腎臓に良い便秘薬・食事・運動はある?
これまで腎臓病における便秘治療の重要性についてお伝えしてきました。
この章では薬の選び方や食事療法について解説します。
腎臓病における便秘の治療と薬の選び方
これまで腎臓病における便秘治療の重要性についてお伝えしてきましたが、薬の選び方にも注意が必要です。
主な治療薬の特徴について解説します。
ルビプロストン(商品名:アミティーザ)
最近特に注目されているのが、ルビプロストン(アミティーザ)です。
このお薬を使用することで、腎臓に対して保護的に働くという世界初の研究結果(LUBI-CKD TRIAL)が2025年8月に報告されました。
この薬は、単に排便を促すだけでなく、腸内に潤滑油のような役割を果たす腸液を分泌させたり、善玉菌を増やしたりする効果も示されています。
それらのメカニズムを介して、腎機能に対しても肯定的に働いたと考えられています。
ただしルビプロストン(アミティーザ)は人によって効きすぎて下痢を起こすことがあります。
臨床研究でも一般的に使われている量の半分以下で使われていることから実際の診察でもごく少量から投与することが望ましいです。
酸化マグネシウム
古くから使われている一般的な便秘薬で私もよく使用します。
しかし、腎機能が低下している場合、薬に含まれるマグネシウムが体内に蓄積し、心臓の不整脈など悪影響を及ぼすリスクがあります。
所感としては、軽度の腎臓病で他に多くの薬を服用していない患者さんでは問題にならないことも多いですが、定期的な血液検査でマグネシウム値が上昇していないかを確認することが不可欠です。
またポリエチレングリコール(モビコールなど)と呼ばれる便秘薬は便秘の専門科が1番目か2番目に選択する薬で便秘に対する高い効果が期待できます。
刺激性下剤(センノシドなど)
腸を無理やり動かす作用があり、便秘に対する即効性や治療効果は非常に高いお薬です。
その一方で、長期間使用し続けると腸の血流障害を引き起こしたり、薬がないと排便できなくなる「依存性」が生じたりすることがあります。
そのため、基本的には「どうしても出ない時にたまに使う」程度にとどめるのが望ましいと考えられています。
球形吸着炭(商品名:クレメジン)
腸内の毒素を吸着して便とともに排泄させるお薬です。
過去の研究では、インドキシル硫酸などの尿毒素を減らすことで、腎機能に対して保護的に働くことが報告されています。
一方で、近年では「かつて期待されていたほどの効果はないのではないか」という意見もあり、医師によって積極的に処方するかどうかが分かれるお薬でもあります。
腎臓病における便秘改善のための食事
次に、便秘治療のための食事や食生活について解説します。
腎臓病の患者さんでは、「便秘解消のために食物繊維を摂りたいが、野菜や果物はカリウムが高いため制限しなければならない」という矛盾が生じがちです。
腸内環境の改善と腎臓病の管理、この両立が難しいケースが多く見られます。
腎臓病と便秘の食事の考え方
結論から申し上げますと、大切なのは「腎臓病のその食事制限が本当に自分に必要なのか」を正しく選別することです。
例えば、野菜や果物の制限(カリウム制限)については、ガイドライン上、腎機能を示すeGFRが45を下回り、血液検査でカリウムが高い方に推奨されます。
逆に言えば、45以上の場合は、特定の場合を除き強く推奨されているわけではありません。
私の臨床現場での所感としては、実際に厳格なカリウム制限が必要な方は、腎臓病患者さん全体の2〜3割程度ではないかと考えています。(※詳しく知りたい方は、以下のYouTube動画「【医師が解説】腎臓病でも食べても良い野菜・果物 | 食べ方大全」をご参照ください。)
これは完全に個人差があるため、血液検査の結果を見て主治医と判断していくのが良いでしょう。
腎臓病の食事療法にナイーブになりすぎるが故に食べ物が偏って、今まで自分なりにバランスが取れていた腸内の環境を悪くしないことも頭の片隅において良いと思います。
カリウムを抑えつつ食物繊維を摂る工夫
もし、本当にカリウム制限が必要な状況で、かつ食物繊維をしっかり摂りたい場合は、以下のような「低カリウム・高食物繊維」の食材を賢く選択しましょう。
- こんにゃく
- 寒天
- ところてん
- もやし
- オートミール
- きのこ類 など
また調理法の工夫として 「茹でこぼし」や「水さらし」によってカリウムを減らすことが可能です。
ただし、「茹でこぼし」については、葉物野菜と根菜ではカリウムの除去効率が大きく異なります。効率よく制限を行うためには、どの食材を茹でこぼすべきか、戦略的に考える必要があります。
※詳しく知りたい方は、Youtube動画「【管理栄養士がゆっくり解説】腎臓病カリウム大辞典!食材別のカリウム量と上手な食べ方を管理栄養士が徹底解説!」ご参照ください。
腎臓病と便秘の運動療法
次に、便秘解消に向けた運動療法についてお話しします。
体を動かすことは、便秘改善のための非常に強力な武器になります。
加齢や運動不足により、便を押し出す力が低下している場合、いくら便を柔らかくしても排泄が困難になることがあります。
腸そのものは平滑筋という筋肉で動いていますが、その腸を外側から支え、排便時に「いきむ力」を高めるためには、お腹の深層にある筋肉(体幹)を鍛える必要があります。
- プランク: うつ伏せの状態から両肘とつま先を床につき、体を一直線に浮かせてキープするトレーニングです。これにより体幹を鍛えることが可能です。女性やご高齢の方は、無理をせず膝をついて行っても構いません。背中が反ったり丸まったりしないよう、姿勢を真っ直ぐ保つことが重要です。
- レッグレイズ(足上げ運動): 仰向けに寝転がり、両足を伸ばしたままゆっくりと上げ下げします。これにより、排便に重要な下腹部の筋肉を直接刺激することができます。
- 「考える人」のポーズ: 洋式トイレに座る際、彫刻の「考える人」のように少し前傾姿勢をとることで、直腸と肛門の角度がスムーズになり、便が出やすくなるという報告があります。
- 有酸素運動とマッサージ: ウォーキングなどの定期的な有酸素運動は、腸の動きを活性化させます。また、おへそを中心に「の」の字を書くように、時計回りにゆっくりとお腹をマッサージすることも効果的だと言われています。
さいごに
いかがでしたでしょうか?
この記事では、腎臓と腸が互いに影響し合う「腸腎連関」と、腎臓病における便秘のリスクについてお話ししてきました。
腎臓病における便秘対策のポイントは以下の3点です。
- 「腸腎連関」を意識し、腸内環境を整えて尿毒素を減らすこと 自分にとって「本当に必要な食事制限」を正しく見極めること
- 必要に応じて運動や食材の工夫そして薬を組み合わせること
- 便秘は単なる不快な症状ではなく、腎機能そのものに影響を与える可能性があること
しかし、腎臓病の食事療法は「カリウム制限」と「食物繊維の摂取」という矛盾に直面しやすく、ご自身一人で判断して極端な制限に走ってしまうリスクについてもお伝えしました。
赤羽もりクリニックでは、医師と管理栄養士が連携し、最新の知見に基づいた便秘治療や、あなたの現在の腎機能・ライフスタイルに合わせた診療を行っています。
「最近便秘がちで腎臓への影響が心配」「ネットの情報で何を食べればいいか分からなくなってしまった」という方は、ぜひ一度ご相談ください。
もし当院の診療に興味がある方は、以下の当院紹介をご覧くださいね。
当院では、マンツーマンで日常の食生活を具体的に見直していけるため、慢性腎臓病が心配な方や、生活習慣について不安をお持ちの方は、どうぞお気軽に以下のバナーよりご連絡ください。
参考文献:赤羽もりクリニック監修 医師と管理栄養士が教える腎臓病・糖尿病レシピの教科書
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