ブタの臓器をヒトに移植する「異種移植」とは?腎臓分野の最新事例をわかりやすく解説
こんにちは、赤羽もりクリニック院長の森 維久郎です。
「透析を続けながら腎移植の順番を待っているけれど、献腎移植は15年待ちとも言われていて、正直この先どうなるのか不安…」
そう感じている患者さんは少なくないのではないでしょうか。
腎移植を望んでも、日本ではドナー(臓器提供者)の不足が長年の課題です。
こうした中、海外で急速に研究が進んでいるのが、ブタの臓器をヒトに移植する「異種移植(いしゅいしょく)」です。
この記事では、異種移植の仕組みと、実際にブタの腎臓を移植された患者さんの事例、そして今後の見通しについて解説していきます。
異種移植とは
異種移植とは、異なる種の動物の臓器を人に移植する治療法です。
腎臓分野では、遺伝子編集を行ったブタの腎臓をヒトに移植する研究が、アメリカを中心に進められています。
なぜサルではなくブタなのかと疑問に思う方もいらっしゃるかもしれません。
ブタは1回の妊娠で10頭以上生まれ、成長も早いため、臓器提供の動物として現実的です。
また、サルはヒトと生物学的に近い分、未知のウイルス感染などのリスクがかえって大きくなるとも言われており、ブタが選ばれています。
なぜ拒絶反応が起きるのか
ブタの臓器をそのままヒトに移植すると、ヒトの血液中の抗体がブタの血管表面にある「抗原」を攻撃し、臓器が短時間で壊死してしまいます。
これは異種移植特有の「超急性拒絶」と呼ばれる反応です。
この壁を越えるための大きなブレークスルーが貢献しました。
1.CRISPR-Cas9
2012年に登場した「CRISPR-Cas9(クリスパー・キャスナイン)」というゲノム編集技術です。
拒絶反応の中心となる3種類の抗原をゲノムレベルで編集する「トリプルノックアウト」が可能になったことで、移植後の経過が格段に改善しました。
現在は抗原編集に加えて、補体制御・血栓抑制・免疫抑制に関わる遺伝子編集を組み合わせる形で、各企業が開発を進めています。
2.CD154抗体薬
もう一つの技術的な進展が「CD154抗体薬」です。
拒絶反応に関わるB細胞・T細胞・抗原提示細胞に対して効果的に働き拒絶反応の減少に大きく寄与しました。
残る課題
ただしこれらが解決できたのは臓器移植後の短期の合併症で長期的な抗体産生に伴う慢性拒絶反応については、まだ課題が残っていると言われています。
各企業のアプローチ
異種移植の研究の肝はどうやって拒絶の少ないブタの腎臓を作れるかにかかっています。
そのため複数の企業が独自の遺伝子編集アプローチで競い合っています。
一歩リードしているのがアメリカの以下の2つの企業です。
- United Therapeutics社/Revivicor
- eGenesis社
United Therapeutics社/Revivicor
もともと肺高血圧症の治療薬を手掛ける企業で上場もしています。創業者のご家族が肺の病気があり、肺高血圧の治療の開発に成功しましたが、最終体には臓器の交換がセンターピンであるという考えのもと、Revivicorを子会社化し異種移植に力を入れています。
後でも触れますが、United Therapeuticsが主導する臨床試験は数十名ほどの人を対象とした挑戦的な研究であり、この研究の動向が今後の異種移植の運命を左右するとも入れています。
eGenesis社
ブタの腎臓で唯一の半年以上の生存を確認した後述する事例はこのeGenesis社の開発した技術が採用されています。
United Therapeuticsとは対照的に着実に実績を積み上げている会社です。
日本のPorMedTec社の協業でも話題になっています。
このほか、Makana Therapeutics(アメリカ)、Qihan Biotech(中国)、NZeno(ニュージーランド)、XTransplant(ドイツ)、Clonorgan(中国)なども研究を進めています。日本では、PorMedTec社がeGenesis社と協業し、国内でのクローン豚の生産・管理を担っています。
実際に行われた移植事例
これまでに、ブタの腎臓の移植を受けた方は世界で4名報告されています。
1. リチャード・スレイマン氏(2024年3月移植、eGenesis社):約2ヶ月後に心疾患により逝去
2. リサ・ピサノ氏(2024年4月移植、United Therapeutics社):約2ヶ月後に逝去
3. トワナ・ルーニー氏(2024年11月移植、United Therapeutics社/Revivicor):拒絶反応があり透析導入
4. ティム・アンドリューズ氏(2025年1月移植、eGenesis社):9ヶ月にわたり機能が維持され、大リーグの始球式に登場するまでに回復
いずれも「人道的使用(Compassionate Use)」としてFDA(米食品医薬品局)の承認を受けて実施されたものです。この結果を踏まえ、United Therapeutics社は数十人規模の本格的な治験「EXPAND」を、eGenesis社も拡大アクセスプロトコル(EAP)による臨床試験を進めています。
異種移植の今後の見通し
ここまで読んで、「異種移植があれば透析をしなくても済む時代が来るのでは」と期待される方もいらっしゃるかもしれません。
ただ、現時点ではまだ研究・臨床試験の段階であり、長期的な安全性や生着率については今後のデータの積み重ねが必要です。
また、仮に技術が確立したとしても、移植手術を行える医療体制の拡充にも時間がかかると考えられます。
だからこそ、今できることは変わりません。
それは、CKD(慢性腎臓病)を早期に見つけ、できる限り透析や移植が必要になる前に進行を食い止めることです。
最後に
いかがでしたでしょうか?
この記事では、ブタの臓器をヒトに移植する「異種移植」について、その仕組みと最新の事例をご紹介してきました。
異種移植は腎臓医療の新たな可能性として注目されていますが、まだ実用化には時間がかかる段階です。
赤羽もりクリニックでは、医師と管理栄養士が連携し、透析を予防するための食事・生活改善のご提案を行っています。
「腎機能が気になる」「将来的に透析を避けたい」という方は、どうぞお気軽にご相談ください。
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