糖尿病は自力で治せる?糖尿病の病気・薬との付き合い方
こんにちは、赤羽もり内科・腎臓内科の看護師の斎藤です。
「糖尿病をなんとか自力で治したい」
「通院して投薬治療を受けているけど、糖尿病を自力で治す方法があれば知りたい」
このようなお悩みを抱える糖尿病患者さまも、多くいらっしゃるのではないのでしょうか。
糖尿病を通院せず自力で治せたら、それは誰にとっても嬉しいことです。
しかしながら大変残念ながら、現在のところ糖尿病を自力で治す方法はありません。
こんな風にお伝えすると「では打つ手なしか…」と落胆されてしまうかもしれませんが、付き合い方次第では、糖尿病を抱えつつも十分に健康で活動的な生活を送ることは可能です。
糖尿病は身体が必要とするインスリンというホルモンが十分に作り出せないため、血糖値が高くなる病気です。
従って、日々の生活の血糖値をうまくコントロールすることで、糖尿病の悪化、合併症(血管系の病気)を防ぐことができます。
私は、糖尿病指導士を持つ看護師として9年、糖尿病の患者さまと向き合い、看護・生活指導を続けてきました。
日々糖尿病の患者さんとお話しする中で、血糖値を下げるために白米を一切食べない…毎日10km歩いて運動をする…など血糖値を良くするために一生懸命取り組み、血糖値を下げる方は多くいらっしゃいますが、続けることが難しく、またそのような努力にもかかわらず血糖値が悪くなる方が多くいらっしゃいます。
今までの経験で、多少数値が悪くても自分は大丈夫だと思っている人こそ、糖尿病の悪化、心筋梗塞、足の切断、失明、人工透析などになっている人が多い印象があります。
正しく病気を理解し、自分自身に合った食事・運動の改善に取り組むことで、良い数値を維持することがとても大切です。
本記事では、糖尿病を医学的な見地から解説すると共に、私が日々の臨床の現場から得た経験をもとに、糖尿病患者さまが糖尿病と付き合う上で気を付けるべき生活のポイントをまとめました。
この記事が、糖尿病と共に日々を前向きに過ごしたいと願う患者さまのお役に、少しでも立てますと幸いです。
【目次】
1.そもそも糖尿病を自力で治す方法はない
残念ながら、
糖尿病の数値が正常値になった≠糖尿病が治ったことではありません。
糖尿病は身体が必要とするインスリンというホルモンが十分に作り出されない、もしくはインスリンが効きにくいため、血糖値が高くなる病気です。
インスリンが作り出せなくなる理由は以下の2つの理由があります。
- 糖尿病はすい臓の細胞が壊れてしまう病気
- 一生涯に分泌されるインスリンは決まっている
生きているうちにすい臓から出るインスリンの量は決まっています。しかも、両親、祖父母が糖尿病であると、遺伝的な要因でさらに少ない可能性があります。
さらに糖尿病になる原因は、すい臓のインスリンを分泌する細胞(β細胞)が壊れることで起こると言われています。
壊れる原因は、自分の免疫がインスリンを分泌する細胞を敵だと勘違いして攻撃して細胞を壊してしまう1型糖尿病と、すい臓を無理に働かせて、じわじわ細胞が壊れる2型糖尿病があります。
全糖尿病の人の中で、1型糖尿病は1割程度しかいなく、その他はほぼ2型糖尿病です。
2型糖尿病と診断された時点で、すい臓の機能は半分程度になっていると言われています。
一度壊れてしまった細胞は復活することは難しく、普通の人よりすい臓は弱った状態なため、食事や運動に一生懸命取り組んで血糖値を改善しても、元の食事と運動に戻ればまた血糖値は高くなります。
また、インスリンはしっかり分泌されていても、体重が多いことで脂肪組織から出る物質(アディポカイン)がインスリンの効きを悪くし、血糖値が高くなります。
なので、一生懸命痩せて血糖値が改善しても、リバウンドすればまた血糖値は高くなります。
2.糖尿病とどう付き合っていくか
ここでは、把握すべきポイントと糖尿病の指導に関わってきて、問題になりやすいポイントをお伝えしていきます。
まずは身体の状態を把握する
糖尿病は今の身体の状態を知ることが大切です。
血糖値が多少高くても、体調には表れません。痛くもかゆくもないので、体調だけで「今日血糖値高いな…」を把握することは難しいです。そこで見るために必要なのは【血液検査】です。
まず、一番に見るべき項目はHbA1cです。
目標値は患者さんの背景は治療内容等で異なりますが、血糖が高い状態が長く続くと細い血管のダメージが大きく、心筋梗塞や脳梗塞などの太い血管が関わる病気のリスクが高くなります。
このHbA1cってなにかというと…1~2ヶ月前の血糖値の平均です。
絵にするとこんな感じで
食べると血糖値が上がり、インスリンによって、血糖値が下がり…を繰り返しています。
HbA1cは、1-2か月分の血糖の状態をみており、上の図でいうとピンクの箇所を指します。
血糖値の上がり下がりの面積で、この面積が増えるとHbA1cが悪くなります。
よくあるのは、「血糖値は良い数値なのに、HbA1cは良くなりません」と話す方がいます。
血糖値は比較的すぐに結果として出てきますが、このHbA1c1~2ヶ月後の血糖値の平均を表しているため、血液検査の1週間前から食事の節制、運動を始めても、数値は改善しません。
1~2ヶ月、取り組みを続けることがとても大切です。
ちなみに、今日の体重は何キロでしたか?
体重も、手軽に糖尿病の状態を知る手懸りの一つです。
体重が多いとインスリンが効きにくく、血糖値が下がりにくい身体になってしまいます。
太っている人は適正な体重に減量していくことも大切です。
痩せた結果のHbA1cは1~2ヶ月後に反映されるので、急に痩せて、すぐにリバウンドしたら何も意味がありません。
まずは、リバウンドしにくい減量のペースと言われている1ヶ月500g~1kgで今の体重から3~5%痩せることを目標にしてみてください。
3~5%減量することで、HbA1cはもちろん、コレステロール、肝機能、血圧などの結果が改善すると言われています。
焦らずじわじわゆっくり痩せることが大切です。
糖尿病の食事
HbA1c値を改善するための気を付けるべき、ポイントをお伝えします。
食事をするときにぜひ、血糖値の面積を増やさない食べ方を意識してください。
① 血糖値の上がりやすいものに注意する
血糖値のふり幅が大きくなると、血糖値の面積が増え、HbA1cも悪くなっていきます。
血糖値が上がりやすい食べ物はたくさんありますが、
かなり上がりやすいのは、ジュース、果物です。
ジュースに入っているブドウ糖加糖液というものは、砂糖が一杯入っていて、血糖値を上げます。
ジュースに入っている砂糖の量を角砂糖に換算すると以下のようになります。
- 炭酸飲料、清涼飲料水500mlで15個以上、
- スポーツドリンク500mlで10個以上
- 缶コーヒーで3個以上
普通だったら角砂糖15個なんて食べられないのに、ジュースに形を変えるだけで角砂糖15個なんて余裕ですよね??
ジュースを飲んでいるだけで糖尿病になる人(ペットボトル症候群)もいるぐらい、血糖値を上げてすい臓に負担をかけます。
スポーツドリンクを飲みながら運動をすることを止めただけで。HbA1cが低下した人も多く見てきました。
炎天下でハードな運動、アスリートでなければ水分補給は水や麦茶などで十分と言われています。
果物はヘルシーそうですが、じつは果物の甘さは血糖値が上がりやすい形をしています。
旬の果物は甘さも増し、おいしすぎてつい食べ過ぎてしまいます。
食事そのままで果物の量を減らし、HbA1cが低下した人もいるぐらいです。
② 3食以外の間食、おやつに注意する
1日3食食べると、以下のように血糖値の山が3つになります。
一方で3食以外に、10時、15時におやつを食べて、夕食後に果物を食べると…
血糖値の山は6つになり、どんどん面積が増えていきます。
できる限り、3食食べて、その他の山を多くしないことがHbA1cを改善させるポイントです。
血糖値を上げる糖質は身体のエネルギーで車に例えるとガソリンです。
効率よく身体を動かすために、血糖値が上がりやすい性質をしています。
この糖質を食べなければ、血糖値が正常になるのかというとそうではありません。
ここ最近は糖質=悪いものと認知がされ、糖質制限などしている人もいますが、これは大きな間違いです。
絶対的に必要な栄養素で、この糖質がないと身体が栄養不足だと勘違いをしてしまい、うまく動かなくなり、逆に血糖値が悪くなる可能性もあります。
糖尿病の人も毎食適正量を食べることが大切です。
- 毎回ラーメン、半ライスセットを頼んでいたけど仕事頑張ったご褒美だけにするにする。
- ご飯大盛を3口分減らす。
- 口さみしい時にせんべいをつまんでいたものを、口さみしい時はガムにしてせんべいは時間と量決めて食べる。
などの工夫をすると良いです。
Hba1cは1~2ヶ月しないと結果として反映されないので、ちょっとしたことでも続けたほうが、確実に改善に繋がります。
糖尿病の食事について知りたい方は「血糖値を下げる食べ物で糖尿病を良くする4つの基礎知識」のページもご参照ください。
糖尿病と運動
運動は血糖値を下げる効果があります。
血糖値を下げるパターンは
血糖値にすぐ効果がでるパターンとじわじわ効果でる2パターンがあります。
すぐ効果が出るのは食事のあと、1~1時間半後に運動(血糖値の山が一番高くなる手前)をすると、血糖値の山が低くなります。
いつもより多く食べた時は、食後1~1時間半後にいつもより動くと結構効果的です。
運動というとハードル高くなりますが、ラジオ体操でも、掃除でも、草むしりでも、買い物でも大丈夫です。
当院の糖尿病内科専門医の嶋崎医師は、階段の上り下りなど日常生活の中の運動を増やして、座っている時間を減らす工夫をすることをお勧めしています。
じわじわ効く効果は
運動をすると、血糖値が下がりやすい効果で、約2日間効果が持続します。
毎日運動は難しくても、1日おきにやること効果的です。
糖尿病と運動については「糖尿病にきく運動や筋トレで血糖値を下げるための基礎知識」のページもご参照ください。
3、薬を飲み始めたら終わりか?
よく聞かれるのは、「薬、インスリン注射を始めたら、一生飲み続けないといけない」と言われる方がいます。
しかし、そうとは言えません。糖尿病の初期の段階であれば、薬の力を借りて一時的に膵臓を休ませることで、すい臓の機能が回復する方もいます。
長期的には、食事、運動の治療を取り組んで薬を最小限、上手くいけば無しにすることもできます。
薬がなくなった場合には、より食事療法・運動療法の継続が重要になります。
糖尿病は生涯付き合っていく病気です。
続けることができる食事、運動を行い、足りない分を薬の力を借りて、良い血糖コントロールを維持して、合併症の発症や進行を防ぐことが、質の良い生活に繋がります。
今は、内服薬、注射薬の開発もかなり進んでおり、使いやすく質の高い薬が沢山出ています。
詳しくは「糖尿病の薬が開始したら読んでほしい記事。副作用は?」のページもご参照ください。
4、将来、糖尿病を治す治療は出てくるのか
今は1型糖尿病(自分のすい臓を攻撃して、インスリンが全くでない人)の完治に向けた研究ですが、
・ips細胞から作った膵島(インスリンが出る部分)を作り出す研究
・老化細胞を除去する治療ワクチンを作り、糖尿病を改善させる研究
・バイオ人工膵島移植(ブタのすい臓を移植)
など、糖尿病の治療を大きく変える可能性がある研究が多くされています。
今後の医療の進歩に期待をしましょう。
5.さいごに
いかがでしたでしょうか?
糖尿病と診断されて、気持ちが落ち込んだ方も多いと思います。
残念ながら糖尿病を完全に治すことはできませんが、正しい食事療法、運動療法、そしてサポートする薬を飲むことで上手い健康な人と変わらない生活を送ることが可能です。
当院では管理栄養士による栄養指導に力を入れております。
実際、健康診断で糖尿病を指摘されて、薬を飲まずに生活習慣の改善だけで良好なコントロールを保っている患者様も多くいらっしゃいます。
ご不明な点がございましたら遠慮なくご相談ください。
webより、診察のご予約を受け付けております。
もし当院の診療にご興味がある場合は以下の紹介ページも一度ご覧になってください。
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