腎臓病の初期症状をチェックしよう ~この症状って腎臓??~
こんにちは、透析予防のクリニック、赤羽もりクリニックの院長の森 維久郎です。
今日は、腎臓が悪くなった時の症状について触れたいと思います。
当記事は当院の腎臓専門医の森医師と平野医師が監修しております。
【目次】
腎臓病の初期症状はあまりない
まず結論から申し上げますと、腎臓病の初期症状はありません。
腎臓の症状としてむくみやだるさが有名ですが、これらの症状が出るのはかなり進行してからになります。
症状の種類や個人差はありますが、腎臓病のステージ4になってから起きることが多いです。
自分の腎臓の状況についてよく分からない方は以下の記事をご参考になってください。
【参考】
代表的な腎臓関連の症状
腎臓関連の代表的な症状として以下のようなものが挙げられます。
- 足のむくみ
- だるさ
- 尿量が減る
- 貧血
- 頻尿
- 痛み
- 尿の泡立ち など
腎臓と足のむくみ
足のむくみが起きるメカニズム
むくみは、皮膚の下にある皮下組織などの組織の水分(組織間液)が異常にたまることで起きます。
通常、人間の体の水分は、組織間液、細胞内、血管内などにバランス良く分布していますが、以下のようなことが起きるとバランスを崩します。
- 血液中のタンパク質が足りなくなる
- 体全体の水分量が多い
そのため、腎臓からタンパクを失なったり、尿の量が減ると足のむくみが出ます。
足のむくみ以外の症状
足のむくみ以外にも以下のような症状が出ることがあります。
これらの足のむくみ以外の症状は、原因特定のために大切な情報になります。
- 顔のむくみ
- まぶたの腫れ
- 尿が少ない
- 倦怠感 など
足のむくみが起きる原因
腎臓が関わるむくみの原因となる病気は以下のような病気があります。
- 腎臓病
- ネフローゼ症候群 など
ただし腎臓以外にもむくみの原因となる病気はあり、以下のような病気があります。
- 心臓の病気(うっ血性心不全など)
- 肝臓の病気(肝硬変など)
- 甲状腺の病気 など
また、血液の流れが原因となるものもあります。
- 下肢静脈瘤
- 下肢の静脈弁不全 など
病気だけでなく以下のような影響を受けてむくみが出ることもあります。
- 薬
- 立ち仕事
- 足の筋力低下 など
腎臓と頻尿
頻尿とは、尿の回数が多いことを指し、具体的には「朝起きてから寝るまでの排尿の回数が8回以上」の状態を指します。
また、就寝中の排尿回数が1回以上あると夜間頻尿と言います。
腎機能が低下すると、尿の濃縮の力が低下して尿の量が増えます。
特に夜間での尿の濃縮力が低下すると夜間頻尿になることがあります。
また腎機能が低下するとナトリウムの排泄が遅くなり、日中に排泄されるべきナトリウムが排泄されず寝ている間に排泄されることで尿意を催すこともあります。
腎機能低下以外の頻尿の原因としては以下のようなものがあります。
- 過活動膀胱
- 前立腺肥大症(男性のみ)
- 尿路感染症・尿路系の癌
- 糖尿病
- 水分の多量接種 など
これらの原因によって治療が異なるため、しっかり診断をつけてから治療を行うのが望ましいです。
だるさ
だるさは腎機能低下が進行するとよく見られる症状の一つです。
腎機能が低下すると、尿から不要な毒素が外に出せなくなり溜まっていきます。
すると、疲れやすさやだるさを認めることがあります。
ただし、腎機能低下が軽度の場合はあまり起きず、腎臓以外の原因も考えた方が良いでしょう。
貧血
腎臓は尿を排泄するだけでなく、ホルモンを分泌する働きもしています。そのため、腎機能が低下すると、エリスロポエチンという血液をつくるホルモンの量が減り貧血が起きます。
この貧血は、心臓・腎臓の障害に繋がるため必ず治療が必要です。
個人差はありますが、腎臓病ステージ4になってくると治療を始めることが多いです。
痛み
腎機能が低下しても痛みが出ることは少ないです。
ただし腎臓の感染である腎盂腎炎や、尿管結石では痛みを生じます。
これらは感染の治療は結石の治療を行うことで症状が改善するのが一般的ですが、慢性的に続くと腎機能低下につながることもあります。
診療科は、腎臓内科ではなく泌尿器科に受診するのが望ましいです。
詳しくは日本泌尿器科学会の「腎臓の痛み」のページをご参照ください。
尿の泡立ち
尿の泡立ちは、腎臓から異常にタンパクが漏れる病気になると認める症状です。
タンパク尿は腎臓のSOSのような役割を担うため、必ず早期発見のための対応が必要です。
詳しくは「タンパク尿を指摘されたらまず読んでほしい記事」のページをご参照ください。
便秘
慢性腎臓病と便秘
慢性腎臓病になると、便秘になりやすくなると言われており、最近この慢性腎臓病と便秘の関わりが注目を集めています。
便秘は症状だけでなく、ミネラルの代謝異常や尿毒症に繋がることもあるので慢性腎臓病では便秘に対してしっかり治療を行う必要があります。
便秘のメカニズムと原因
慢性腎臓病の患者さんでは腸内で2つの変化が起きていると考えられています。
- 善玉の腸内細菌の数が減る
- 腸管への負荷の増加
これら2つの変化が起きる原因ははっきりと分かっていないのですが、以下のような原因が関与しているのではないかと言われています。
- 食事制限による食物繊維の低下
- 腎臓の薬の影響
- 腎機能低下により体が酸性になること
- 腸管の血流障害
- 神経の障害による腸の活動性の低下 など
便秘が腎臓病に与える影響
便秘が腎臓病に与える影響は以下の3つが考えられています。
- ミネラルの調整不良になる
- 尿毒素を増やす
- 腎機能を障害する可能性 など
ミネラルの調整に与える影響
慢性腎臓病になると、腎臓での不要なミネラルの排泄ができなくなるので、便から排泄するようになります。
便秘になると便からの排泄に滞りが起きるため不要なミネラルが溜まりやすくなります。
腎臓病で特に問題になるのは高カリウム血症で、適切に治療しないと突然に繋がる心臓の不整脈を引き起こす可能性があります。
尿毒素の調整に与える影響
便秘になると食べたものが腸内に滞留する時間が長くなり、尿毒素が作られやすくなります。
尿毒素は筋肉や骨の異常、心臓などにも影響を与えます。
慢性腎臓病でタンパク制限をするのもこの尿毒素を増やさないためであり、便秘になると尿毒素が増えてしまいます。
腎機能に与える影響
便秘によって溜まる尿毒素は腎機能に悪影響を与える可能性があります。
つまり便秘が腎機能を低下させる可能性があり、現在、腎臓病の便秘に対する治療と腎機能の保護効果を調べた検討がされています。
便秘の治療法
便秘の治療法としては以下のようなものがあります。
- 内服薬
- ウォーキングなどの有酸素運動
- お腹のマッサージ など
腎臓病ではよく使用される便を緩くする酸化マグネシウムという薬を使いすぎると血液中のマグネシウムが増えるので注意が必要です。
また腸の動きを刺激するタイプの便秘薬は依存性が高く、腸の血流を悪化させることもあります。
近年、アミティーザと呼ばれる便秘の薬は便秘の改善だけでなく、腎臓の保護効果がある可能性があり期待されています。(ただし、アミティーザは時折下痢になる方がいます。)
代表的な腎臓病の合併症
腎臓病になっても初期症状はあまりありませんが、体の中には早期の段階から以下のような変化を引き起こします。
- 心臓病のリスクを増やす
- 筋肉や骨の衰えを早める
- 歯周病を引き起こす
- 認知症リスクを増やす など
そのため、症状がないから問題が無いわけではなくこれらの合併症に対応する必要があります。
腎臓病と心臓病
腎臓病の方は心臓にも負担がかかり心臓の病気になりやすいと言われており、この心臓と腎臓の関連性を心腎連関(しんじんれんかん)と呼びます。
実は、腎臓病の患者さんの一番の死因は心不全で、腎臓病が進めば進むほど心臓の病気になるリスクが上がります。
心腎連関のメカニズム
心腎連関には様々なメカニズムが関与していますが、代表的なものは以下の3つです。
神経・ホルモンの影響
腎臓や心臓の機能が低下すると、交感神経と呼ばれる神経、レニンやアルドステロンと呼ばれるホルモンが活性化します。
これらの神経やホルモンの活性化は長期的には心臓に負担を与えてしまうため、心臓病でこれらの神経やホルモンを抑える薬が使用されます。
腎静脈の圧の上昇
心臓の機能が低下すると、血液の流れに渋滞が起きて腎臓から心臓への血液の通り道である腎静脈に体液がうっ滞してしまいます。
腎臓は、血液の流れにおいて入口の腎動脈と、出口の腎静脈の圧に差があるを好みます。
出口の腎静脈の圧が高くなると腎臓における血液の流れがスムーズにいかず腎機能低下が起きます。
腎血流の低下
心臓は身体の全身に血液を送る臓器で、機能が衰えると腎臓の血流が低下して腎機能の低下が起きると言われています。
動脈硬化が進行していると、この腎血流の低下の影響は大きく受けることがあります。
心腎連関の検査
腎臓病では、定期的に心臓の状態をチェックする必要があります。
心臓の検査(もしくは動脈硬化の検査)として、以下のようなものを行います。
- 血液検査
- 胸部レントゲン
- 心電図
- 心臓エコー
- 頸動脈エコー
- 血圧脈波検査 など
必要であれば24時間ホルター心電図、心臓CT、心臓MRIなどの心臓の精密検査を行うこともあります。
心腎連関の治療
腎臓の治療と心臓の治療は共通している部分が多く、以下のような治療を行います。
- 塩分制限
- 運動療法
- 利尿剤の治療
- 血圧の治療
- コレステロールの治療
- 血糖の治療
特に心臓病で使われる以下の薬はは心臓と腎臓の両方に保護的に働く作用があるので積極的に使用します。
- RAS系阻害薬
- SGLT-2阻害薬
- ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬
またコレステロールを治療することで直接的に腎機能を保護する効果はありませんが、心臓や脳の病気を予防することが可能です。
特に腎臓病の患者さんでは悪玉コレステロールと呼ばれるLDL-Cの値を120mg/dl以下、可能なら70mg/dl以下にすることが望ましいです。
腎臓病と筋肉・骨
腎臓は筋肉・骨とも密接に関わっており、腎臓病になると、様々なメカニズムを経て筋肉が衰えると言われており、健康な人に比べて7割程度まで身体機能が低下していると言われています。
また腎機能低下が進めば進むほど、身体機能の低下は強くなることが分かっています。
透析患者さんの身体機能は5割まで低下しており、8人に1人が過ごしている時間の半分以上をベット上で暮らしているとも言われています。
また、腎臓病では筋肉だけでなく、骨が脆くなり骨粗鬆症、骨折になるリスクが高くなると言われています。
筋力・骨に対する検査
腎臓病における筋力低下・骨の脆弱性に対しては以下のような検査を行います。
- 血液検査
- 握力や体組成計による測定
- 骨密度の測定 など
特に、腎臓病ではカルシウムやリンなどのミネラル異常が起きて、骨が脆くなっている可能性があるため血液検査で適宜検査を行います。
筋力・骨に対する治療
検査を行った上で、治療として以下のようなものを行います。
- ミネラルの調整
- 腎臓リハビリテーション など
特に高齢の方を中心に腎臓リハビリテーションはここ数年注目を集めており、身体機能だけでなく腎臓への保護効果も期待されています。
腎臓リハビリテーションについては知りたい方は「」をご参照ください。
腎臓病と歯周病
歯周病は、糖尿病、認知症など全身の健康に大きな影響を与え、近年、歯周病と腎臓にも大きな関わりがあることがわかってきました。
今後、腎臓病の患者さんの歯科治療は腎機能の改善にも影響を与える可能性があり注目を集めています。
歯周病が腎臓に関わるメカニズム
歯周病の患者さんでは、P.gingivalis(ジンジバリス)という菌を始めとした歯周病菌が歯茎の毛細血管から、血管に侵入して全身の血管を障害します。
特に内皮細胞と呼ばれる細胞への障害は、動脈硬化を引き起こしたり、腎機能障害に関わる可能性があると言われています。
腎臓病の患者さんは、腎臓病でない患者さんに比べて歯周病になっている率が高いと言われており、歯周病の炎症の面積が大きいと腎機能の低下が進むという報告もあります。
歯周病の治療法
まずは、日常の歯磨きやフロスを行うと良いでしょう。その上で、定期的な歯科の受診をお勧めします。
歯周病菌は歯周ポケットの奥深くに潜み、歯科の専門用具を使って歯垢・歯石を掘り出しながら除去するのが望ましいとされているためです。
糖尿病の領域では、既に病院・診療所と歯科の治療の連携が推奨されており、今後腎臓の領域でも推奨されていくことになるでしょう。
腎臓病と認知症
腎臓病の患者さんは認知症を発症する可能性が高いと言われており、半数以上の方が軽度認知障害と呼ばれる認知症の1歩手前の状態になっていると言われています。
腎臓病で認知症が起きるメカニズム
メカニズムとしては、背景にある以下のような原因が関係していると考えられています。
- 高血圧
- 糖尿病
- 脂質異常症
- 喫煙
- 心房細動 など
また腎機能が低下することで起きる以下のようなメカニズムも関与していると言われています。
- 腎性貧血の影響
- 副甲状腺機能亢進症の影響
- 酸化ストレス
- レニン・アンジオテンシンの活性化
- 交感神経の活性化
認知症の治療
認知症の治療薬で効果の高いものはまだなく、以下のような生活習慣の改善が望ましいです。
- 適度な運動
- 社会生活への積極的な参加
- 囲碁・麻雀
- 散歩・スポーツ
加えて認知機能低下を起こす原因の血圧などの治療することが大切です。
後回しにせずに医療機関へ
このページを見ている方には、最近不調が気になり、インターネットで調べてみたところ腎臓のような気がしてこのページにたどり着いた方も多くいらっしゃるようです。
もしかしたら腎臓とは関係ないかもしれませんが、中にはもっと早く見つけておけばよかったと思う事例も。。
勇気を出して、医療機関で一度血液検査・尿検査を行い腎臓の評価をしてみても良いと思います。
受診する診療科は腎臓内科が望ましいですが、中には周りに腎臓内科のクリニックがないこともあるので内科のクリニックでも最低限の検査を行えると思います。
当院であれば、血液検査でクレアチニン・シスタチンCという項目、尿検査で尿タンパク定量検査という項目を中心に検査を行い、必要に応じて腎臓エコーなどを行います。
専門外来ではどのような診療を行うかにご興味がある方などは以下のページをご覧になってください。
~この記事を書いた人~
森 維久郎
日本腎臓学会腎臓専門医
外来診察 年間1万人以上
書籍 合計4冊出版 合計2万部以上
YouTubeチャンネル「じんぞうの学校」登録者数17000人以上
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